December 9, 2015

EKIBEN
Boxed lunch in Wonderland

産業革命とともに世界中の主要都市では鉄道の線路が張り巡らされ、それまで出会うことのない遠い、遠い、未知の地域や人を結んでいった。
鉄道文化は世界にあれど、日本のような駅弁文化はない。もちろん、食事をする文化はあるが、駅弁のように到着した駅の地域の特産品の形をした独自の器を作り、その中に地域の素材、調理法や保存法の食文化を背景に持つ伝統料理を厳選し、これほどまでに一回の食事に郷土愛たっぷり詰め込んで仕上げる、一食入魂の仕事を他国で見ることはない。
Text and Photo by Aki Tomura

BENTOに親しむみなさま、ぜひ次はEKIBENへ

地域に根ざした、リアルな”和食”を食べる方法

2013年12月にユネスコ無形文化遺産に登録された和食。世界から見た和食は、懐石料理や寿司といった日本人からすると日常的に食べる食事ではなく、特別な日のご馳走である。かたや、ラーメン、カレーというものは、外食などでの手軽な軽食に近い存在で、日本人らしい素材にこだわりのある和風の進化を遂げているものの、日本人の多くは、中華料理やインド料理としての認識で、それらも和食であったか?との疑問が国内で多く話題にされていました。

先日も、アブダビからのフライトでギリギリに駆け込んだチェックインカウンターにて東京に住んでいることを伝えると、ラーメンの美味しさと魅力について最高のサービスとともに笑顔で話してくれる男性に出会いました。そういった話を聞くと、まあ、ラーメンも中華であった時代から様々な日本の素材と地域性、料理人のこだわりを経て、日本を代表する食事に成長していたことに気づかされる。

さて、外国の方で世界文化遺産に登録されたことにより、日本で和食の研究をしたい方がいれば、鉄道を使い駅弁を食べ歩くことを勧めたい、というのがこの記事の目的です。地域性豊かな地方の観光大使でもある駅弁の存在は、島国といえど南北に長く、海、山、里と個性豊かな自然が広がる各地で地域に根差した多様な食材と、さまざまな文化の違う風土料理を手軽に体験する機会を与えてくれます。そして、駅弁は、平均的に1000円前後(消費税別)の価格が守られており、これは、現代において作り手の大変な努力が伺えるものです。

和食の定義

伝統的なものは、工場などではなく料亭などで作られているものもあり、北海道の母恋飯に関しては、夫婦二人で丁寧に作られています。本来、乗客が初めて通過する駅に対して、地域側が産地の魅力を最大限にアピールし、ファンを掴む、もしくはお国自慢をすることで発展してきた駅弁文化。海に近い地域は、海産物の食文化と調理法、山間の地域は、山の素材での食文化と調理法、保存法、調味料や味付けなどまで各地で違います。
ユネスコ無形文化遺産で評価の対象になった「日本人の伝統的な食文化」、「日本人が抱く”自然の尊重”の精神を体現した食に関する社会的慣習」というものの地域性、風土の違いを体験出来る機会となり、ユネスコ無形文化遺産に登録申請した際に農林水産省が定めた「和食」の定義は、①多彩で新鮮な食材とその持ち味の尊重 ②栄養バランスに優れた健康的な食生活 ③自然の美しさや季節の移ろいの表現 ④正月などの年中行事との密接なかかわり というもの。

豊かな自然に育まれた日本各地の地域文化。素材の味わいを生かす調理道具も発展し、様々な調理技術が誕生。和食は、多様な表現を持っています。

実は、絶滅危惧

明治時代から昭和の中期までは、駅に到着した汽車に弁当を抱えた売り子が並んで立ち、ホーム上で鉄道車両の窓越しに販売、購入するものでした。新幹線が出来た頃から(窓が開かなくなったからか)、ホームにあるキオスクや駅構内の店舗などでの店舗販売、もしくは、新幹線内のワゴンサービスによる販売になり、多くは乗る前に購入し、電車内でいただく購入方に変化。現在は、売り子が窓辺に来る駅はほぼなく、唯一、窓越しでなく開いたドアの入り口越しで売る駅が岐阜県の美濃太田駅にあるようです。
近年、日本国内においては、鉄道が観光ではなく仕事で利用されること、一駅の移動時間が短かくなったことなどの様々な要因により、現在、伝統的な駅弁の種類は激減しています。書籍を一冊仕上げる間にも20軒の個性的な駅弁が生産終了してしまいました。現在、書籍に出ているものでも、なくなってしまったもの、将来的になくなるものがあるはずです。
一方、伝統的な商品ではあまりなかった、ブランド和牛などの肉料理の弁当は、数を増やしているものの、新しく開発される駅弁のパッケージに関しては捨てやすい紙などのものばかりである。地域色の強い伝統的なパッケージデザインのされた駅弁は、年々数が減っているのが現状です。

手売りから、店舗へ、その店舗がコンビニエンス・ストアのチェーン店の運営に

2014年、国営鉄道会社の運営であったキオスク(駅構内の店舗)がセブンイレブンと提携し、より安価なお弁当やおにぎり、サンドイッチという商品が増えた。日本国内の消費者には便利”コンビニエンス”であったことが提携後の売り上げが1年で70%増えたことを見るとわかります。しかし、これがまた伝統的な駅弁のシェアを減らすことにつながる可能性もあると残念に思っている。
駅に限ったことだけではなく、世界は、駅ビルを含むやショッピングモールなどの均一化が進むことは、地域の個性を失うことにつながると危機感を感じています。大量にプロダクトを作り単価を下げることを目的にした経済活動のデメリットとして、小さな会社や作り手が参画する機会が減り、駅弁や手工芸、伝統産業といった地方文化も同時に出番を失ってゆくことにもつながってゆくのです。

エコロジーブームより前から、すでにサステナブルだった

駅弁のパッケージは、現在のように環境問題に取り組む前から当たり前にゴミにならないように貯金箱や小物入れになるという二次使用が考えられ、工夫されてきました。空腹を満たしつつ、地域の特性や文化を知り、旅のお土産にもなり、家でも使用ができる。最近は、生分解性プラスチックを導入した弁当箱や、植物の種つきの植木鉢を弁当箱に使用するなど、小物入れ意外の使用用途の工夫されたものもあります。しかし、こういった文化や配慮も伝統的な駅弁とともに消えつつあるのかもしれません。

FOLKHOODの駅弁プロジェクトでは、現在も苦労や工夫をしながら生産を続けている駅弁メーカーのために、または、日本独自の文化を残すために、外国の方々へ向けた英語テキストによる駅弁の紹介書籍を制作いたしました。
ピカチュウ(東京都)、ハローキティー(東京都)、アンパンマン(高知県)、ウルトラマン(東京都)、阪神タイガース(兵庫県〜神戸、新神戸駅)といったキャラクターもあり、こちらは著作権などの問題で書籍に掲載できなかったものなども多くあります。ぜひ、探してみてください。
そして、私たちが夢見る未来は、話好きの母恋飯の夫婦のような作り手の元へ、世界中から様々な人種の方が駅弁を求めて旅をしてきてくれる姿です。ぜひ、京都や東京といった都市だけでなく、駅弁を求めて日本の新しい食を体験する旅に出てみてください。

本来、日本人が想う「お弁当」は、誰もが学生の頃に味わう母の味。栄養や体調に合わせてつくられた愛情のこもった食事の思い出があるものです。学校や遠足、行楽などで味わってきた家庭の味です。この体験から生み出される、お弁当の文化冷めても美味しく、安全に保存できるこれらの技術や工夫は、家庭で引き継がれて守られてきた元祖、日本の味です。

書籍には載せなかった情報で、富山の鱒寿司のパッケージでの遊びをご紹介(著者の家だけの習慣で、一般的に行われる事ではありません)。ゴムで留めてある竹の棒4本と寿司の容れ物とで、人形などを参拝させて遊べる鳥居が完成する。
意外に子供たちは、これが好きで車や人形などが列をなして参拝させて遊びますので、少し変わった二次用例としてご紹介しておきます。

書籍
EKIBEN:The Ultimate Japanese Travel Food
(IBC Publishing, Inc.)

メディア
2015年
webマガジンSHUNGATEにてインタビューを受けました。

December 9, 2015

EKIBEN
Boxed lunch in Wonderland

産業革命とともに世界中の主要都市では鉄道の線路が張り巡らされ、それまで出会うことのない遠い、遠い、未知の地域や人を結んでいった。
鉄道文化は世界にあれど、日本のような駅弁文化はない。もちろん、食事をする文化はあるが、駅弁のように到着した駅の地域の特産品の形をした独自の器を作り、その中に地域の素材、調理法や保存法の食文化を背景に持つ伝統料理を厳選し、これほどまでに一回の食事に郷土愛たっぷり詰め込んで仕上げる、一食入魂の仕事を他国で見ることはない。
Text and Photo by Aki Tomura