November 12, 2018

Made with Japan
2018
Lithuania+奄美大島

2018年のMade with Japan Projectでは、昨年度の取り組みと同じくバルト三国のラトビアの木工に、新たにリトアニアのリネンを加え、奄美大島にて1300年以上とも言われる歴史を持つ伝統工芸、大島紬を支える泥染の技術との融合を試みました。
ヨーロッパの文化と切り離せないリネン。嫁入り道具に欠かせない道具としてテーブルリネン、キッチンリネン、ベットリネン、バスリネンなどに家紋や名前のイニシャルを刺繍で入れた布をたくさん持って行ったと言われます。家族で引き継ぎ、大切に使えば100年の生活を共にするリネンと、奄美大島の伝統産業で親、子、孫、と三代着れると言われる日本が誇る織物、大島紬。
今回は、リトアニアの旅から美しい青い海に囲まれた自然豊かな奄美大島で行った泥染作業まで。約一年間にわたり、旅をし、学び、流れる汗を拭きながら行う島での作業を通して生み出した、私たちの取り組みをご紹介いたします。
Text and Photo by Aki Tomura / Itoki Tomura

Made with Japan 2018 Lithuania+奄美大島

リトアニアへの旅

リトアニアの正式名称は、Lietuvos Respublika。首都は、ビリニュス。近代的な建物の多い世界の空港の中で、ビリニュス空港は地方都市の市役所の建物に来たような空港独自の緊張感のない歴史を感じる可愛いらしい窓口に到着します。北欧、中欧、東欧文化が入り混じる街並みが残る首都ビリュニスの旧市街は、世界遺産に認定されている美しい場所で目的なくぶらぶらと探索するのも楽しい街です。
EU加盟後にヨーロッパからの交通が整備され、イギリス、イタリア、ドイツ、ノルウェー、オランダ、ベルギー、フランスなどの格安航空会社などの乗り入れもあり、国外からも、リトアニアから他のヨーロッパの都市へも移動がしやすく快適。また、飛行機以外に高速バスも利用しやすく、考えるよりも気軽に足を運べる場所です。

*バスでの移動は、ごく稀に国境にて検問があるときがありますので、パスポートはトランクに預けるスーツケースにしまわず、手荷物でバスに持ち込んでおくことをお勧めします。

私たちが最初の視察でリトアニアを訪れたのは2016年。1990年に人間の鎖運動で1990年にソビエト連邦から独立した後、欧州への復帰を目指し2004年5月にEUに加盟しています。2011年にエストニア、2014年のラトビアに続き、2015年にリトアニアも通貨リタス(LTL)からユーロに加盟。最初に滞在した2016年は、ユーロへ対する懐疑論が市民の間で語られ、温和なリトアニアの方々もスーパーのレジで価格の二重表記にイライラといった姿もありましたが、2年後になる2018年の今年の滞在では別の国に訪れたかと思うほど変化しており、目抜通りには外資系の飲食店やアパレルショップが立ち並び始めています。何より驚いたことは、若者やビジネスマンがガラリとファッショナブルになったこと。もともと美しい方が多い国で有名ですが、雑誌から出てきたモデルのような人々が街の景色に花を添えています。
治安も良く夏は白夜で夜が長く遅くまで外で過ごせますが、21時以降はお酒を売らない法律があり、お店に並んでいても21時になれば売ってくれません。もしも、遅めの時間にゆっくりと飲みたい方は、昼の間にオーガニックショップなどでボトルワインやチーズなどを買っておき、ホテルのテラスや部屋で町並みを眺めながらのんびりいただく準備を21時前にしておくことをお勧めいたします。
私たちが通っていたのは、Bio Sala.(Vokiečių g. 13, Vilnius 01130 Lithuania)美味しいbioワインと食材が揃い、買い物のついでに道の向かい側にある日本の焼き餃子をつまめるGyoza Barもお勧めです。

過去3年は、隣国のエストニア、ラトビアと比べるとまだ物価も安価でしたが、仕入れで付き合いが始まった工場から、来年の2019年から輸入素材など物価が上がり素材の単価が上がってしまうので予定があれば今年中に受け付けましょうか?というとても親切なメールを受け取りました。年々と物価が上がってきているようです。

リトアニアとリネン

リトアニアの伝統産業でもあるリネン。リネンの歴史は紀元前のエジプトのミイラが巻かれていた布まで遡ることができ、人類が使用してきた最古の生地とも言われます。
リトアニアに現在の背の高いフラックス(亜麻)の種を船乗りたちが農家の人々へ届けたのは、16世紀ごろだと言われています。以降、寒暖の差が大きいリトアニアでは、線維が長く柔らかい質の良いリネンが採れるようになったことから持ち帰った船乗りたちが再度輸出商材として持ち出し、原材料のフラックス栽培から紡績、生地の生産、製造までがリトアニアの主要産業として栄えてきました。その頃は、Lina,Lienaといったリネンを由来とする名前の女性も多かったとのことですが、現在はLinaさんの女性名前人気ランキングでは18位あたり。しかしそうして長年に渡り栄えた主要産業も近年では、アジア産の安価な原材料が輸入できることから農家が激減。私たちの農家さんから取材したいという目的は今年度の滞在時には叶わず、現地のこだわりのある織り手さんなどは「待ってて。そのうち、復活させるわ」などと熱く語られているのが印象的でした。
リトアニアリネンというものは、フランスやベルギーと同じく高級ブランドとして世界で認知されており、ヨーロッパでの正式な夜食のテーブルクロスには、現在でもダマスク織のリネンが尊重されていることから、これからもリネンに関わる産業は培われた文化と共に途絶えることなく続いていくと思われます。

洗って育てる。丁寧に使えば100年もつ。嫁入り道具としてのリネン

ヨーロッパの歴史と切り離せないリネン。嫁入り道具に欠かせないものとしてテーブルリネン、キッチンリネン、ベットリネン、バスリネンなどに家紋や名前のイニシャルに刺繍を入れた布をたくさん持って行ったと言われます。家族で引き継ぎ長い年月の生活を共にする織物です。

 呼吸する生地とも言われるリネン。繊維組織内に中空構造を持つために、コットンやシルクに比べて吸水性に関してはコットンの4倍と言われ、速乾性に関しては、コットンの2倍。早く乾くことが抗菌にもつながります。水に濡れると強度を増す特性から繰り返し洗濯ができ、また、自然乾燥で清潔に保てるため、台所周りから、タオルなどまで湿度の高いアジアの生活にも幅広く利用できます。優れた通気性は、”纏う薬”とも表現され、熱伝導率が大きく湿度の高い部分から低い部分への熱移動を容易にする特性が体温を外に放熱させるため、風邪の時など熱がある状態に使用でき、夏場には最も涼しく感じ、清潔に保てる繊維として長年下着などとしても選ばれてきました。使えば使うほどしなやかな生地になり、昔から使用開始から10年後が一番良い状態になると言われる育てる布です。


長く使えるリネンと奄美大島の大島紬をつなぐ企画は、こうした”長く使用する”という背景から結びついたものでした。奄美大島の伝統産業である大島紬は、親子孫と三代着れる紬として長い歴史を歩んできました。しかし、戦後の生活様式の変化などにより、和服を着る文化が薄れ、一大産業であった大島紬の産業技術保存が危ぶまれています。今回は、この大島紬の技術の中でも特に奄美大島独自の”泥染”に光を当て、リトアニアのリネンとの融合を試みることにしました。

自然豊かな奄美大島にて

東京から飛行機で2時間ほど。鹿児島県に位置する奄美大島は、日本国内の島では佐渡島に次ぎ面積5位の島となり、美しい海に囲まれた内陸には、特別日本国指定のアマミノクロウサギをはじめ、ルリカケスなど10種類の国の天然記念物が生息するマングローブ林や亜熱帯独自の原生林が広がる自然豊かな島です。

今回の取り組みでは、染色家でデザイナーである夏八木ことさん主導で進めています。リトアニアでの生地の選定や視察から一緒に旅をしてきました。
夏八木さんは、アメリカやパリで約20年ほどオートクチュールの仕事に就く中で海外生活を通して日本の着物の美しさを再確認し、2006年に奄美大島へ泥染を学びに移住。自身のブランド「MUD WESTRN」を運営してます。
今回、5月末からのバルト三国への取材へ飛ぶ前の2月に一週間ほど奄美大島へ滞在し、前年度に仕入れていた生地やラトビアの木地を使い泥染めのテストを行うことから始めました。本当に自分たちが欲しいと思う魅力的なものに仕上がるか。そして、家族に毎日使ってもらえる安全なものになるか、そんな幾つかの検証を兼ねたテストを行い、結果は、生地、木地共にとてもよく、泥染作業を終えて製品を持ち込んだ浜辺にて、数月か後に控えた旅への想いや期待を日が暮れるまで語り合いました。

奄美大島と泥染

150万年もの遥か昔から奄美大島を含む琉球列島付近の海底には、鉄分を豊富な粘土地層の泥が分布しており、その中でもキメの細かい奄美大島の泥は、生地や繊維を傷めない泥染に最も向いた土であると言われています。奈良県にある正倉院の書物に残されていた記録により1720年以前には紬が織られていた歴史を辿ることができますが、現在のような高級品としての大島紬がブランド化されたのは、黒糖とともに将軍家への献上品、交易品とされていた1800年代のようです。地域によって、男物の柄を織る地域、女物の柄を織る地域などもあり、どれも気の遠くなるような複雑で繊細な柄があり、奄美への滞在中は、現在その柄を集め書籍として記録する保存作業を行う方の話や、紬に関わる数多くの職人さんや問屋さんなどの話を伺いながら過ごしました。

泥染の作業は、主に下記の工程で行われます。
地元では、”テーチギ”と呼ばれるバラ科の植物である硬い車輪梅(よみ:シャリンバイ。学名:Rhaphiolepis indica var. umbellata、 シノニム:R. umbellata。バラ科、シャリンバイ属の常緑低木。日本では、東北地方南部以南、韓国、 台湾までの海岸近くに分布)を山から切り出し、チップ状に細かく刻んだものをかまどの大きな鍋で数日煮だし、その煮汁を発酵させて染液を作ります。このテーチギ。海風に吹かれ頼もしく苦労して時間をかけて育ったものがよく、また根元のほうがタンニンが多いとのことですが、この根元部分が鉄のように硬く、この最初の仕込みの下準備作業だけでも大変な苦労があります。そして、山の環境を考えながら自然に負荷のないように頂いてくるには、長い経験と自然への感謝や配慮がいる仕事です。
このシャリンバイから抽出した植物性タンニン酸色素と泥田の土の中に含まれる鉄分(酸化第2鉄)による化学結合の繰り返し作業により色の深みを生み出して行きます。伝統的な大島紬に使用する織物用の糸染に関しては、シャリンバイ作業>泥田作業>川作業>の繰り返しを85回以上、時には100回繰り返し染色することにより親子孫と三代着れると言われる色落ちのない漆黒に染まります。

桃太郎でいう、おじいさんは柴刈に、おばあさんは川へ洗濯、という二役に加え、腰を曲げて重い生地を指先を使いながら揉み込むシャリンバイ染めの作業、ぬかるみに足を取られながら中腰で行う泥田での染めの作業を一人で85回以上行うような仕事です。体験するとまさに苦行。糸を染める作業だけでもこの苦行。さらに、柄を生み出すために織っては紐解、二度織る作業があり、工房によって多少の違いがあるものの30~40の複雑な工程(この中の一つが泥染)を経て織り上がる世界でも例のない大島紬の価値がどこで誰がどの様に行っているのかを知れば、現在でも一反数十万~数百万の価値になることは二つ返事で納得できます。作業工程が多く、どの作業も体力と経験、忍耐を要する想像を超える大変な仕事であることにおどろかせられます。
独自の文化と歴史、技術、そしてこの島でなければ完結しない仕事。輸入に頼らぬ素材で現在も受け継がれていること。自然と人との融合した島独自の貴重な仕事であることがわかります。

もしも奄美大島に行くことがあり観光を兼ねて、詳しく大島紬の仕事の工程を知りたい方は、大島紬村・大島紬製造工場観光庭園をお勧めいたします。(*要予約)ガイドの方が一緒に敷地を歩き詳しく丁寧に説明くださり、伝統工芸師の方々を交えながら教わることができます。

今回は、糸染めではなくリトアニアの生地を夏八木ことさん独自の作品である美しいグラデーションに染めた商品を開発しております。同時にお隣では、ラトビア木地を染める作業でお邪魔いたしました。
どの生地も同じく、一枚づつ夏八木さんにより手作業で車輪梅>泥田>川での工程を繰り返し行っており、同じものはできない一点物です。
泥染の生地は、これまでも肌が弱い方へ向いているということでタオルやシャツなどが好まれてきましたが、今回は毛羽立つことのない通気性の良いリネンで製作したタオルをメインに、洗濯やアイロンの楽なエプロンや大判のテーブルクロスなどを製作しております。
”纏う薬”としてのリネンと、肌に優しい泥染。泥染の効果としては、抗菌効果、消炎作用、防臭効果などがあるとのことで、使えば使うほどに柔らかくなり馴染み吸水性もよく、過去に泥染のタオルを購入された方からの声ではアトピーに悩まされているお子様が泥染の大判タオルのみ唯一肌掛けに使用出来ると喜こばれていました。
赤ちゃんのおくるみから、タオル、首元に巻くショールなど、使う方に工夫いただきながら生活の一部に添うことができれば幸いです。

メディア情報

掲載誌
今回のプロジェクトは、Discover Japan誌 「2018年12月号 Vol.86 特集:目利きが惚れ込む職人の逸品」に6ページにわたり特集いただきました。
TV
BSテレ東
ファッション通信:2018年12月29日 23:00~の放送にて紹介いただいております。

FOLKHOOD〜Made with Japanプロジェクトの展示会は、毎年12月に行っております。
日時や時間のお知らせは、Facebookページより更新しております。
*2018年度の展示会は、終了いたしました。

最新情報
FOLKHOOD_FACEBOOK

November 12, 2018

Made with Japan
2018
Lithuania+奄美大島

2018年のMade with Japan Projectでは、昨年度の取り組みと同じくバルト三国のラトビアの木工に、新たにリトアニアのリネンを加え、奄美大島にて1300年以上とも言われる歴史を持つ伝統工芸、大島紬を支える泥染の技術との融合を試みました。
ヨーロッパの文化と切り離せないリネン。嫁入り道具に欠かせない道具としてテーブルリネン、キッチンリネン、ベットリネン、バスリネンなどに家紋や名前のイニシャルを刺繍で入れた布をたくさん持って行ったと言われます。家族で引き継ぎ、大切に使えば100年の生活を共にするリネンと、奄美大島の伝統産業で親、子、孫、と三代着れると言われる日本が誇る織物、大島紬。
今回は、リトアニアの旅から美しい青い海に囲まれた自然豊かな奄美大島で行った泥染作業まで。約一年間にわたり、旅をし、学び、流れる汗を拭きながら行う島での作業を通して生み出した、私たちの取り組みをご紹介いたします。
Text and Photo by Aki Tomura / Itoki Tomura